司法書士試験対策 憲法前文
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
1 憲法の意義
憲法とは、国家の根本法をいいます。この憲法は、まず「国家」が守るべきルールであることに注意してください(99条)。ですから憲法に違反する法律等は無効ということになります。
憲法の価値観は、「個人の尊重(24・13条)」です。個人主義の思想が根底にあるのです。
この個人の尊重の最大の脅威は国家権力です(封建社会を考えるとわかりますね)。そこで、憲法は、個人の尊重のため、濫用の危険のある国家権力に歯止めをかけているのです。
*憲法を読むときは、思想書を読んでいると思われると良いでしょう。
前文は、個人の尊重の手段として「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」が憲法の基本原則であることを示しています。司法書士試験対策のはじめの一歩として、この3原則は覚えておきましょう。
実は、この憲法は様々な意味で使われます。ここで整理しておきます。
①形式的意味の憲法
憲法という名前で呼ばれる成文の法典(憲法典)を意味します。
②固有の意味の憲法
国の統治の基本ルールを定めた基本法のことを意味します。この意味の憲法は、およそ国家が存在する以上必ず存在するものであり、いつの時代どこの国でも存在します。
③立憲的意味の憲法(近代的意味の憲法)
国家権力を制限して国民の自由・権利を保障しようとする立憲主義の思想に基づく憲法を意味します。立憲主義とは、国家権力の行使を憲法に基づかせることによって、強大な国家権力を制限し、国民の自由・権利を保障しようという思想です。この憲法は、権力分立や基本的人権の尊重と結びつくことになります。
固有の意味の憲法と異なって、すべての国家がこれを有するわけではありません。日本国憲法もこの意味の憲法に属します。通常、憲法と言うときは、「立憲的意味の憲法」を指します。
【参考】フランスの人権宣言(1789年)16条は「権利の保障が確保されず、権力分立が定められていない社会は、憲法をもつものではない」と規定します。立憲的意味の憲法(近代的意味の憲法)の典型です。
*②と③は、憲法の内容に着目した区別です。
2 国民主権
主権は、次の3つの異なる意味で用いられます。資格試験で問われる可能性があります。
①国家権力そのもの(統治権)
たとえば、「北方領土には日本の主権が及ばない」と言う場合の主権です。
ポツダム宣言の「日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾らの吾等ノ決定スル諸諸島ニ局限セラルベシ」という文章中の「主権」も国家権力そのもの(=統治権)という意味です。
日本国との平和条約の「連合国は、日本国及びその領水に対する日本国民の完全な主権を承認する」という文章中の「主権」も国家権力そのもの(=統治権)という意味です。
②国家権力の最高独立性・対外的な独立性
たとえば、「日本は主権国家なので内政干渉はしてほしくない」という場合の主権です。
憲法前文の「・・・自国の主権を維持し・・・」の主権がこの意味です。
③国政についての最高の決定権
この意味の主権が国民にあるとする考えが国民主権です。君主にあるとするのが君主主権です。
前文では、「ここに主権が国民に」とあるように国民主権を明らかにしています。
3 前文の法的性質(司法書士試験上、重要度は低い。)
憲法の前文も憲法の一部であり、法的性質を持つと解されます。よって、本文と同様に改正には96条の改正手続によらなければ改正できません。
しかし、法的性質(法規範性)があるといっても裁判規範性は否定するのが通説です。裁判所は、前文に基づいて裁判はすることができないという意味です。
というのは、①裁判規範とするには前文は抽象的すぎる、②前文の内容は本文各条項に具体化されており、前文を裁判規範とする必要がないというのが理由です。
裁判規範性があるという反対説もありますが、司法書士試験上、覚える必要はありません。